日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

総集編・オススメ映画記事10選①

日刊映画日記・総集編①/The Daily Movie Diary Omnibus No.1(2017年)  

f:id:spinthemashroom:20171104095424p:plain


UW-Madisonに留学中の赤宮は、「日刊映画日記」を書き始めて2ヶ月弱。継続は力なり、という言葉を信じ込み、毎日コツコツ映画記事を書き続けた結果、いつの間にか多くの映画記事を生み出していた。いくつかの記事については、良い感想を送ってもらえることもあった。そしてそんな時、赤宮の頬はついつい緩んでしまった。

他方で、周囲の友人たちから、「読んでみたいけれど、何を読んで良いのかわからない」「評価が曖昧で、赤宮がどの映画が好きなのか伝わりにくい」…そんな声を耳にすることも増えてきた。確かに、このまま書き散らすだけでは良くない。

時は週末。目の前に積み上がった映画記事を前に、赤宮は珠玉の映画を扱った記事10選について執筆することを決意する。きっと、多くの人たちが楽しむことができ、週末の退屈な時間を少し充実させてくれる、そんな作品をオススメしたい。赤宮の戦いが始まった。…

 

 


さて、あらすじチックに書きましたが、本日はいつもとテイストを変えて、「日刊映画日記」の記事から、赤宮自選のオススメ映画記事10選を書いてみようと思います。三連休のお供にどうぞ。

ちなみにタイトルに①が付いてるのは、その内また同じネタを使おう、という精神から来ています。

 

 

1.グランド・ブタペスト・ホテル/The Grand Butapest Hotel(2014年)

cinemuscular.hatenablog.com

「作家と知られると、自然に面白い物語が集まってくるものだ」。作家はそのように前置きしてから、『グランド・ブダペスト・ホテル』の物語を記し始める。

かつて東ヨーロッパで栄華を誇った高級ホテル、グランド・ブダペスト・ホテル。作家が訪れたころ、すでに当時の面影はなく、廃墟のような施設が残るばかりだった。しかし、そんな薄汚れたホテルに、大富豪ムスタファ氏がなぜか滞在しているという。作家としての好奇心に駆られた作家は、ムスタファ氏に近づき、彼との夕食の場を得ることに成功する。…

 

「名作映画には興味があるけど、古い映画はすこしとっつきにくい…」という方にオススメ。2014年という最近の作品でありながら、左右対称や小道具の上手さといった、ハリウッドの伝統的な映像美を正当に継承、そして発展させた傑作。

人と人との繋がりを切なく描いたストーリー、愛着の湧くキャラクターたち、戦中戦後の共産圏の独特の雰囲気…どれをとっても一級品。迷ったらとりあえず見よう。後悔しない作品。

 


2.ロイドの人気者/The Freshman(1925年)

cinemuscular.hatenablog.com

映画で見たような大学での人気者になりたくて、入学前から期待を膨らませるハロルド君。入学後、持ち前の明るさと天然ボケっぷりで一躍有名人になるが、裏では笑いものにされていたことが明らかになり…

 

サイレント時代のスターコメディアン、ハロルド・ロイドのコメディ作品。現代のバラエティに慣れてしまった私たちからすると、「サイレントでどうしてコメディが成立するの?」と疑問に思うかもしれない。天才ハロルドは、そんな思い込みをありとあらゆる方面から突き崩して、私たちを爆笑の渦に巻き込んでしまう。

そして「The Freshman」という原題が示すような、新入生なら誰でも一度は経験するあの失敗を、ハロルドは笑いの力で見事に乗り越えていく。見ていて勇気が湧いてくる作品だ。

 

 

3.ドント・ブリーズ/Don’t Breathe(2016年)

cinemuscular.hatenablog.com

 

「三人のバカが元軍人のジジイの家に侵入した結果wwwww」 

 

 

4.皆殺しの天使/El ángel exterminador(1962年)

cinemuscular.hatenablog.com

邸宅に集まり、夜通し楽しいパーティを開いたブルジョワ一同は、「なぜか」部屋から出られなくなってしまった。原因はわからない。ドアが閉まっているわけではない。一歩踏み出せば外に出られるのに、「なぜか」、誰一人として外に出ることができないのだ。奇妙な、そして不条理な「密室」生活が始まる。…

 

『皆殺しの天使』。「なぜか」部屋から出られなくなる。不条理過ぎる、理不尽な基本設定一つで、ここまで魅せてくれる映画というのもなかなかない。豪華な服を身にまとったブルジョワたちが、人間性をさらけ出して生きようとする姿は、たいへん皮肉が効いていて面白い。

 

 

5.秋刀魚の味(1962年)

cinemuscular.hatenablog.com

年頃の娘の路子の結婚を巡って、父の周平は一肌脱ぐことを決意する。周平の友人たち、恩師、そしてかつての部下。様々な人達との繋がりを通じて自分の人生を見つめ直し、温かい生活から前に踏み出すことを決める父親の姿を描いた、小津安二郎最期のホームドラマ。

 

小津作品なら『一人息子』や『東京物語』とで迷ったが、一作、誰かにオススメするとすれば『秋刀魚の味』だろう。笠智衆の名演、カラー映画の色彩を最大限に活用した映像美、集大成としての小津技法の数々など、小津を見始めるのには割と適した作品だと思う。

ヒロインの岩下志麻はもちろん、岸田今日子岡田茉莉子を端役でバンバン使うという、小津でもないとできない昭和の名女優カタログみたいな作品でもある。昭和の女優に触れてみたい方にもオススメだ。

 

 

6.ウォーターメロン・ウーマン/The Watermelon Woman(1995年)

cinemuscular.hatenablog.com

デュニエはレンタルビデオ店で働く黒人レズビアンレズビアン仲間と楽しく暮らしながら、ビデオを借りに来た美人を引っかけたりして、平凡ながら楽しい毎日を送っている。

そんなデュニエは、とある古い映画に出演していた黒人女優、「ウォーターメロン・ウーマン」に惹かれ、彼女についてのドキュメンタリー作品を制作することを決意する。黒人差別がより酷かった時代、映画に出演する黒人俳優たちはクレジットに名前を連ねてもらえないことも多かった。「ウォーターメロン・ウーマン」もその一人であり、「メロン女」というふざけたクレジット以外に、彼女に手がかりはない。それでもデュニエは、自分の力で彼女の人生を辿ることを決意する。…

 

レズビアンの女性たちの日常を扱った映画、『ウォーターメロン・ウーマン』。とはいえ、明確な政治的メッセージを発する作品ではない。ともすれば退屈に移るかもしれない作品。

何気ない日常という観点からLGBTの問題を扱うことで、彼女たちがごく普通の、ありふれた人びとなのだということを示しだすことに成功した作品だ。

「ウォーターメロン・ウーマン」とは何者なのか。そしてそれが分かった時、彼女たちの日常に、何か変化が訪れるのだろうか。

 

 

7.カリガリ博士/Das Kabinett des Doktor Caligari(1920年

cinemuscular.hatenablog.com

うつろな目をして歩く、白い服を来た美人を見つめて、フランソワはこう言った。「彼女は、ぼくのフィアンセなんです」。訝しげに耳を傾ける初老の男。そんな様子を気にもかけず、フランソワは話を続ける。「彼女とぼくは、きっとあなたが味わったことのないくらい奇妙な体験をしたのです」。…

 

当時としては革命的なストーリー展開と、ドイツ表現主義を体現した世界観を誇るドイツ映画の巨星。絵画の世界にそのまま足を踏み入れてしまったような、心を直接揺さぶってくるような感覚。『カリガリ博士』はそんな映画体験をあなたにお届けする。

 

 

8.巨人と玩具(1958年)

cinemuscular.hatenablog.com

ワールド製菓の西は、宣伝部の仕事にバリバリ打ち込む、ラグビー部出身のスーパーサラリーマン。同じくラグビー出身の上司合田の下、迫るキャラメル商戦に向けて奔走する。新しい「おまけ」を開発するため、そして新しい魅力的な広告塔を立てるため、二人は全てを賭して仕事に取り組んでいくのだが…

 

キャラメルという可愛らしいお菓子を扱いながら、企業間で加熱する宣伝合戦、そしてそこに巻き込まれるサラリーマンたちの姿を見事に描き出した傑作。オタマジャクシに過ぎなかった人びとが蛙になり、そして大海を知ったことで葛藤する。彼らは苦しみながらも、やがて自分なりの答えを見つけていく。

全体としてコミカルな雰囲気をまといながら、その内容は重厚の一言。昭和の高度経済成長も、決して明るいものではなかったことがしみじみと伝わってくる。

 

 

9.野良犬(1949年)

cinemuscular.hatenablog.com

新米刑事村上は、バスの中でスリにやられ、懐に入れていたコルト式拳銃を盗まれてしまう。もし、あの拳銃が犯罪に使われてしまったら…不安が収まらない村上は、闇市を走り回って銃の行方を追う。しかし、そんな中、自分と同じ拳銃を使った強盗傷害事件が発生したという報告を聞き…

 

黒澤明の傑作、『野良犬』。戦後の混乱の中で苦しんだ人びとと、苦しみの中での善悪の対立を見事に描ききった作品。戦前戦中戦後、世代間のズレがもたらす、すれ違いの数々。拳銃が盗まれた、という事件一つからここまで魅力的なストーリーを展開する黒澤の手腕に酔いしれよう。

 

10.レディ・マクベス/LADY MACBETH(2016年)

cinemuscular.hatenablog.com

愛なき結婚をしたキャサリンは、ふとした出来事から農場で働く男セバスチャンと知り合い、そのまま関係を持ってしまう。しかし、夫の父親ボリスが、疑り深く二人の関係に気づき始めて…

 

今までに一番衝撃を受けた作品はと言われたら、赤宮は『レディ・マクベス』を挙げる。徹底した沈黙を用いて描かれる『レディ・マクベス』の世界では、登場人物たちの呼吸、その一つ一つまでがはっきり聞こえてくる。

あえて音を排除する、音を足すのではなく、音を削るというアプローチ。常に張り詰めた空気を貫き続けたこの作品を、しっかりと映画館で体験しよう。

 

 

 

というわけで、以上10作品の記事をオススメしてみました。

この機会に一つでも鑑賞して頂ければ、赤宮はとてもうれしいです。

 

2017/11/3