日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ロイドの人気者/The freshman(1925年)

ロイドの人気者/The freshman(1925年)


The Freshman - 1925

田舎の青年ハロルドは、大学で人気者になることを夢見ている。その後、念願かなってテート大学に入学することになったハロルドは、大学へと向かう列車の中で、ペギーという女性と出会う。短い時間ながらも、仲を深め合う二人。その後再会し、ペギーは、ハロルドが住む下宿で使用人を務める女性だったと判明する。

他方、大学に到着後、ハロルドは他の学生のイタズラで、なぜか入学式の壇上に上がることになってしまう。即興でスピーチをするハロルドだったが、その一挙一動が滑稽だったので、観客に爆笑を巻き起こしてしまった。この出来事がきっかけで、ハロルドの周りにはたくさんの人びとが集まるようになった。自分が人気者になったと感じたハロルドは、その後より大きな人気を求めて、人びとにアイスを奢りまくったり、フットボール部に入部したり、ダンスパーティを開いたり、とにかく奔走する。しかしある時、周囲の人びとが、自分を裏で嘲笑しているという事実を知ってしまう…

 

ロイドの人気者』は、温かいコメディだ。主役を演じるのはサイレント時代の大スター、ハロルド・ロイド。物語の筋はハロルドの学生生活と、ペギーとの恋愛模様から構成される。学生生活においては、原題の『The freshman(新入生)』というタイトルが示す通り、大学の新入生ならば誰だって経験したことのあるハチャメチャさ、そして苦しさがコミカルに描かれている。

ハロルド演じるハロルド*1は、その風変わりな風貌と、どこかトボけた行動によって、周りからもてはやされ、陰で笑われている。とはいえ、ハロルドのようなものでなくとも、人間誰でも、何かしらの人気取りのために、少しバカなことをしたことがあるだろう。そういう経験がある人達には、ハロルドの行動が、少し恥ずかしいものに映るかもしれない。

「田舎からやってきた学生が、都会の学生にバカにされる」という物語を、それほど深刻なものにせず、しっかりとコメディにできているというのは、やはりハロルドの力量あってのものだろう。アイスを配る場面や、フットボール部での厳しい訓練に付き合わされる場面は、厳しい見方をすればイジメに見えないこともない。しかし、そうした雰囲気を微塵も感じさせないのは、畳み掛けるように続くギャグ、笑いの数々が存在するからだ。この作品には、しっかりと嫌な人物たちが出演しているわけだが、彼らの嫌らしさは笑いの力で覆い隠されている。

ただ、後半、人気者になろうとする努力も虚しく、ハロルドは自分がバカにされていただけだ、という事実を知ることになる。ここまでの作中、深刻なシーンはハロルドの笑いの力、コメディで覆い隠されてきた。しかし、コメディアンであるハロルド自身が落ち込んでいる以上、この場面がギャグで誤魔化されることはない。だからこそ、ハロルドが本当に落ち込んでいるのだ、ということが伝わってくるし、これから彼がどうなるのだろう、という期待も抱かされる。コメディの一部において意図的にギャグを省くことで、観客には、この作品がシリアスな一面も持つのだ、という意識が、意図せず生まれるよう仕組まれている。

学生生活という一つの物語で上手く行かなかったハロルドが、どのように立ち直っていくのかについては、本編を見ていただきたい。人気者になれなかったハロルドが、一念発起して再び立ち上がる姿には、かつて「新入生」だった人びとを優しく包み込む、ある種の暖かみがあった。

ロイドの人気者 [DVD]

ロイドの人気者 [DVD]

 

 2017/10/8

*1:ややこしいが、この年代のコメディ作品では、主演俳優が同名の役名を演じることはよくあった。