日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

コンドル/Only Angels Have Wings(1939年)

コンドル/Only Angels Have Wings(1939年)監督:ハワード・ホークス

★★★★

 

 

 

職業監督だから良いのだ


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◯あらすじ

ニューヨークで働くボニー(ジーン・アーサー)は、南米でのショー出演を終えた船の帰り道、エクアドルの港町バランカに立ち寄る。バランカで意気投合した2人のアメリカ人パイロットと交流するボニーだが、パイロットのうちの1人が飛行機事故で還らぬ人となってしまう。ボニーはパイロットの死を悲しむ一方で、彼の上司ジェフ(ケーリー・グラント)は笑いながら酒を飲んでいた。

飛行機乗りで他人の気持ちを慮らないジェフの態度に苛立ちつつも、ボニーは一流のパイロットとして猛烈に働くジェフに惹かれていく。乗る予定だった船を見送り、ボニーは追加で一週間、ジェフたちとともに過ごすことを決断する。…

 

 

 

『コンドル』は1939年のアメリカ映画で、監督はハワード・ホークス。1930年代の飛行機業界において、命がけで働く男性パイロットたちの姿を描いたドラマ作品だ。主演はケーリー・グラントが務め、色気ある「出来る男」をしっかりと演じている。

赤宮はハワード・ホークスが好きだ。当ブログでも過去に『ヒズ・ガール・フライデー』を取り上げた。

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ホークスは多作で知られ、ドラマから西部劇、果てはSFまで手掛けてしまう職業映画監督だ。ミドル・ショットを多用した画面構成で安定したドラマを作り上げ、語るべきストーリーを過不足なく語り尽くす。その手法を悪く言えば、特徴がないと評価することもできる。生前もしばしば商業主義的と評され*1アカデミー賞など主要な映画賞も、晩年のアカデミー名誉賞を除いて縁がなかった。

それでも彼の作品は圧倒的に面白い。『ヒズ・ガール・フライデー』もミドル・ショットを多用し、とにかく登場人物たちのテンポの良い会話と展開を楽しむ作品だった。西部劇にトドメを刺した『リオ・ブラボー』は、射撃の演出一つとってもワクワクする場面でいっぱいだ。掛け合いとアクション、映画の基本的な面白さがホークスの作品には詰まっている。

 

 

 

前置きが長くなった。

『コンドル』はニューヨークのショーガールと、エクアドルで会社を経営する一流パイロットの恋愛模様を描いた作品だ。開始20分で目まぐるしく登場人物が入れ替わる迫力ある展開や、飛行機事故を何度も描き、それでも飛び続けようとする男たちの活躍を描いた作品だ。

これがもう、とにかく面白い。ホークスは職業監督だから、変な間合いをつけない。変なアート心を加えない。変な展開を持ってこない。観客が期待した展開を、一番面白いやり方で演出する。これぞエンターテインメントだというやり方でストーリーを進めていく。

 

 

 

個人的に『コンドル』で好きなポイントは、主人公やヒロインたちが、わかりやすい形で成長しないことだ。作中時間で1周間前後、短い間に人生は大きく変わらない。生半可な成長物語に仕立てない。主人公は最後まで飛行機狂のままだし、ヒロインも芯が強く聡明な女性のままだ。二人の恋愛は心変わりや成長が原因ではない。お互いが変わったのではなくて、お互いを知ったから歩み寄ったに過ぎない。

この辺りの妙なリアル感。ハワード・ホークスに登場する人物たちはみんな頭が良くて、見た目が良くて、互いに譲らない。けれども最後にくっついてしまう。傍から見れば妙な話だけれども、よくよく考えてみれば、こういう「妙な恋愛」が身の回りに溢れている気もする。

 

 

2021/9/1

*1:当のホークスも、自分自身を「自分は職業監督だ」と評価している