日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

呪怨 劇場版(2003年)

呪怨 劇場版(2003年)監督:清水崇
★★

 

人間と幽霊以外がほんとうに怖い


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◯あらすじ
介護施設でボランティアする理佳(奥菜恵)は、社員の依頼で寝たきりの老婆を訪問した。ゴミで溢れた老婆の自宅を掃除していると、2階から妙な物音が聞こえることに気づいた。音の出処をたどったところ、そこにはガムテープで封印された押し入れがあった。中から子どもの声を聞いた理佳が慌てて戸を開くと、中には黒い猫、そして傷ついた子どもの姿があった。…

 

 

 

呪怨 劇場版』は2003年公開の日本のホラー映画だ。1990年代のジャパニーズ・ホラーの流れをくむ作品で、霊の印象的なキャラクター、そして妥協しない恐怖表現により、若者を中心に幅広く支持を集めた作品だ。低予算のVシネマとして始まったが後にシリーズ化し、現在でもNetflixが作られるなど息の長いホラー映画として知られている。

本作はビデオ版と呼ばれる2本のVシネマの続編となっている。Vシネマとは最初から映画館公開を前提とせず、ビデオテープのソフトとしての発売のみを想定した作品群だ。ビデオデッキが普及した1990年代には数多くのVシネマが作られ、低予算ながら意欲ある多くの映画作品を生んだ。『呪怨』を手掛けた清水崇監督をはじめ、現在映像業界で活躍する俳優や監督にもVシネマ出身者は多い。

 

 

 

Vシネマの制作費は広告費込みで数千万円程度だったとされる。劇場映画に比べ大掛かりな撮影は難しく、俳優を長期間拘束するドラマ作品も難しい。したがってVシネマで扱うジャンルは特定分野に集中しており、最も有名なのは極道物、簡単にいうとヤクザ映画だ。必要なセットが少ないギャンブル物も多く作られたという。

そんな中、同じく低予算で発展したのがホラージャンルだ。映画史において1990年代の日本映画は「ホラーの時代」とされ、『リング』『らせん』などのホラー作品が世界各国に影響を与えた。国内でも「TSUTAYA」「ゲオ」などレンタルビデオ店の主力商材とされていたが、劇場公開される映画では十分な供給数を確保できない。したがって中小規模の制作会社がこぞってホラー映画を制作し、業界全体で「ジャパニーズ・ホラー」のノウハウを積み上げていった形になる。

 

 

 

話が横道にそれたが、『呪怨』の映画版には、そうしたVシネマの普及が前提にある。劇場版ではあるがビデオ版と同様、低予算映画の作り方が念頭にある様子で、出来る限り小細工を避け、演出で怖がらせてやるぞ、という強い意思を感じる作品だ。

 

 

 

呪怨 劇場版』の見どころは序盤から連続するホラーシーンだ。

主人公の理佳が恐る恐る階段を登るシーンのカメラワーク、突然現れる男児の演出。そしてなにより音楽。正直いうと奥菜恵の演技は決してよくないのだが、制作側でなんとでもしてやるという気概が感じられる。観客の視線よりもゆっくりカメラを動かし、溜めて溜めて溜めまくる演出。分かっていても、怖がる気持ちは抑えられない。

冷静に『呪怨 劇場版』を見返してみると、構成するシーンのほとんどは何の変哲もないショットだ。奥菜恵が押入れの前で逡巡しているだけだし、散らかったキッチンをミドル・ショットで撮影しているだけだ。ただしそれが『呪怨』の文脈にハマった瞬間、押し入れは得体のしれない存在に見えるし、キッチンのゴミは次のシーンの伏線に見えてくる。

 

 

 

映画は観客の注意力をつなぎとめ続けるものだ、といったのはヒッチコックだったか*1。徹底的に演技指導した俳優を使って観客を魅了したのがヒッチコックならば、ジャパニーズ・ホラーは画面全体で観客の関心をつなぎとめる作品群だ。

呪怨』の手にかかれば押し入れは怪物の住処に見えるし、仏壇は地獄への入り口に見える。印象的なキャラクターたちに惑わされがちな『呪怨』だが、よくよく見ると、人間も怪物も居ないところに本当の恐怖が存在している。

 

 

2021/09/02

*1:マジでうろ覚え。間違っていたら教えて下さい