日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ジョーズ/Jaws(1975年)

ジョーズ/Jaws(1975年)監督:スティーヴン・スピルバーグ

★★★★

 

映画作りが上手すぎる


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◯あらすじ

アメリ東海岸のアミティ島。海水浴客が夜の海で変死した事件を受けて、警察署長のブロディ(ロイ・シャイダー)は調査を開始する。検死の結果人食いザメによる殺傷の可能性が浮上し、ブロディは海水浴場の閉鎖を求めて奔走するが、観光収入を守りたい市長や職員の反対に遭う。海水浴客の事件は「ボートスクリューによる事故死」と処理されるが、今度は真っ昼間の海にて、大勢の目撃者がいる前で子どもがサメに殺されてしまう。

事態の悪化を受け、漁業者たちがサメ狩りに乗り出す。幸いすぐに大きなサメを捕獲したが、海洋学者のフーパー(リチャード・ドレイファス)は「これは人食いザメではない」と断言する。ブロディとフーパーは市長に海水浴場の封鎖を再度求めるが、事態を収束させたい市長はその申し出を断る。そして7月4日の独立記念日。浜辺にはたくさんの観光客が集まって海水浴を楽しんでいた。…

 

 

 

ジョーズ』は1975年公開のアメリカ映画で、監督は後の巨匠スティーヴン・スピルバーグ。キャリア初期の作品で、スピルバーグは若干26歳で同作品を完成させた。人食いザメが人びとを襲うシンプルでわかりやすいコンセプトを打ち出しており、現代にまで続くハリウッド大作映画ビジネスの原型となった作品でもある。アカデミー賞も複数部門で獲得している。

パニック映画の代表作としても知られ、(おそらくスピルバーグの意図に反し)「サメ映画」というジャンルを築いた功労者(?)でもある。大型映画を撮影する例はそれまでになく、若きスピルバーグが情熱と勢いを持って作り上げた作品だ。 

 

 

 

ただ、実際に鑑賞すると、単なる「パニック映画」ではないとわかる。

作品の前半では、島に突然現れた人食いザメへの対応を巡る泥臭い人間ドラマが展開される。この段階では人食いザメは「怪物」というより「事件」に近く、島の警察としてどう対応するか、いかに市長や関係者を説得するかという場面に多くの時間が割かれる。主人公のブロディとフーパーは「探偵と助手」のようなコンビで、死体やサメを解剖し、真実にいたろうとする姿は探偵ドラマそのものだ。

一転、後半では船に乗り、ブロディとフーパーはサメ・ハンターという新たな仲間を加えて人食いザメの討伐に出かける。前半に比べると人間関係が狭く、その分立場や考え方の違いが鮮明になる。時には酒を飲みながら、共通の敵である人食いザメをどうやって倒すか。状況に応じて最善を尽くす「海の男」の姿が描かれる形だ。

 

 

 

ハズレ作品も数多く存在する「パニック映画」と「ジョーズ」を隔てる違いは、スピルバーグらによる丁寧な演出だろう。前半部では数多くの人物を同時にスクリーンに収め、後半部では船上という狭い舞台をこれでもかと撮り尽くす。人食いザメについても脅威は最大限伝わるよう、ヒッチコック的なサスペンスのエッセンスがふんだんに盛り込まれている。

思うに、「ジョーズ」はサメを主役として扱いつつ、決してサメを撮ることを目的としていない。サメはあくまで強大な舞台装置であり、人びとがサメにどう立ち向かうか、サメがなにをもたらしたかに焦点が当てられている。人食いザメは確かにスクリーンの主役だ。しかし「ジョーズ」が描くのは、その脅威だけではないのだ。

 

 

 

わがままを言うなら、前半の人間ドラマをもっと観ていたかった。数え切れない人びとが統率され、画面を演技で埋め尽くす姿は、サイレント時代の白黒映画を彷彿とさせる。しかし「ジョーズ」に求めるべきはやはり後半のパニック映画の要素なのだろう。映画の伝統を引き継ぎつつ、ハリウッド大作主義の礎を築いた。スピルバーグは当時26歳、まごうことなき天才の仕事である。

 

2021/8/31