日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ/Battle of the Sexes(2017年)

バトル・オブ・ザ・セクシーズ/Battle of the Sexes(2017年)監督:ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス

※日本では2018年7月6日公開予定


切れ味鋭く、爽やかな社会派映画

 


BATTLE OF THE SEXES Trailer (2017)

エマ・ストーンって美人だよなぁ)


女子テニスのナンバーワンプレイヤー、ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)は、テニストーナメントの報酬が男女間で8倍もの差があることに意義を唱え、テニス協会からの脱退と、女性による新協会の設立を宣言した。旧協会からの圧力を受けつつも、ビリー・ジーンたちは活動を進め、女子テニスは徐々に人気を集めていく。

そうした時勢をうまく読み取ったのは、かつての男子チャンピオン、ボビー・リッグス(スティーブ・キャレル)。彼は女子テニスの人気に男と女の戦いを見出し、男女対抗スペシャルマッチを提案する。しかしビリー・ジーンは、自分たちの活動をフェミニズムと重ねられたくはなかった。やんわりとボビーの誘いを断るものの、ビリー・ジーンのライバルは、男子との対抗試合に乗り気な様子で…

 

 

 

バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は、実際にアメリカで1973年に行われた、テニスの男女対抗スペシャルマッチを基にした作品だ。プロットはこのスペシャルマッチを軸にして進行するが、テニスの試合や結果にはそれほど重点が置かれていない。どちらかというと試合を巡る男女間の不平等や、登場人物たちの複雑な人間模様を中心としてストーリーが進行していく作品だ。

1973年という時代性を踏まえ、現在と比べて著しく不平等だった男女関係や、全くといっていいほど市民権を得ていなかったLGBTQの問題などが、当時の文脈で丁寧に描写されている。それらは主人公のビリー・ジーンの行動を通じ、ストーリーの中で違和感なく展開されているため、政治的な嫌らしさもあまりない。作品としてのバランスを保ちつつ、監督の描きたいテーマをしっかり描いており、全体として優れた出来になっている。

 

この作品で真っ先に褒めるべきなのは題材選び、そして切り取り方の潔さだろう。フェミニストLGBT活動家としても活躍したテニス選手ビリー・ジーンを取り上げ、かつそのキャリアの一番面白い部分に絞った作品作りを行っている。

考えうる選択肢としては、ビリー・ジーンの人生全体を取り上げ、伝記のような作品作りを行うだとか、他にも彼女の選手キャリア全体を見渡して成長物語を展開する、という方法もあったはずだ。しかし、『バトル・オブ・セクシズ』はそうしたやり方を採用しない。この作品は余分な要素を一切省いて、「1973年のスペシャルマッチ」に焦点を当てて、そこに向かっていくビリー・ジーンの姿だけが描かれている。

ストーリーが始まった時点でビリー・ジーンはウィンブルドンで勝利しているし、世界最高の女子テニス選手としての名誉を手にしている。そんな彼女が、1人の女性として、マイノリティとして、いかに「男と女の戦い」に臨んでいくのか。

 

そして、「1973年のスペシャルマッチ」に焦点を絞るという『バトル・オブ・セクシズ』のアプローチは、必然的にもう一人の主人公を生み出すことになる。それはビリー・ジーンの対戦相手、ボビーだ。55歳、かつての世界チャンピオンであったボビーは、ビリー・ジーンから見た「前世代」、つまり男性優位主義者の象徴として描写されている。

しかし心憎いのが、ボビーが必ずしも、典型的な強い男性のイメージを背負いきれていない、ということだ。彼の腹は出ているし、意中の女性からはぞんざいな扱いを受ける。皮肉なことに、テレビ越しで彼を応援している人たちのほうが、よっぽどマスキュラーで、「男性らしい」見た目をしている。「男の代表」であるはずのビリーは、必ずしも男らしくはなりきれていない。にもかかわらず、世の男性たちはビリーに「男と女の戦い」を任せきっているという、なんとも奇妙な関係性が浮かび上がってくる。

 

スペシャルマッチを巡る2人の戦いだけでなく、彼女たちを取り囲む人びとの人間模様も面白い。

この辺りの描き方がさすがで、幾何学的をいかんなく発揮した映像づくりや、シーンの展開に合わせて重低音をうまく使った音楽のセンスなど、使えるものは全部使ってしまえ、という勢いで繊細な人間関係が描写されている。ネタバレになるので詳しくは書かないが、鑑賞の際はぜひヘッドフォンを付けていただき、画面と音楽の細かい変化に十分配慮していくことをおすすめする。

 

 2017/12/29