日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

座頭市/Zatoichi(2003年)

座頭市/Zatoichi(2003年)監督:北野武

★★★★★

 

俺たちが観たかったタップダンス


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○あらすじ

盲目ながら凄腕の剣客、市(北野武)がとある街にやってきた。百姓女のおうめ()と知り合った市は、賭場で彼女の甥である新吉(ガダルカナル・タカ)と知り合う。博打で大勝ちした市と新吉は芸者の姉妹に殺されそうになるが、身の上を尋ねたところ、彼女ら二人は街を支配する銀蔵一家に恨みをもっていることが分かる。

日を改めて後日。相変わらず博打に興じていた市だが、相手のイカサマを見抜き、ヤクザをばったばったと斬り殺してしまう。この出来事をきっかけに、市は賭場を運営する銀蔵一家に目をつけられてしまうのであった。…

 

 

 

座頭市』は2003年製作の時代劇映画だ。監督は北野武、11作目。勝新太郎が築いた傑作『座頭市』シリーズをリスペクトしながら、北野らしいコメディを随所に散りばめた傑作になっている。

 

 

 

北野の『座頭市』について、物語や構成で語るべきところは少ない。流れ者の市が街にやってきて悪人を倒す。勧善懲悪の時代劇ストーリーだ。強いていうなら市の背景についてだろうが、終盤に断片的に語られるだけだ。ネタバレを避けるためにも、ここでは触れない。

さて、では何が北野『座頭市』を傑作に育てたのか。リメイクにあたって北野が加えたのはリズムと音楽だ。農作業や大工仕事の動作に合わせて音楽をシンクロさせる(いわゆる「音ハメ」)。真剣勝負の場面に一見似つかわしくない音がちょこんと入る。『座頭市』に音楽の要素をふんだんに取り入れることで、北野は勝新太郎の築いた巨塔に対抗する形だ。

北野武が浅草の見習い時代にタップダンスを熱心に学んだことはよく知られている。芸歴を重ねてからもその技術は衰えず、抜群の映画センスと併せて上質なエンターテインメントを演出することを可能にした。


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ところで、タップダンスといえば。2021年夏の東京五輪開会式。突然やってきた大工集団が、なんともコメントしづらい、学芸会のようなタップダンスを披露していた。


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思うに、あのタップダンスの元ネタは『座頭市』だ。北野武ビートたけし)は後日自身の冠番組で苦言を呈していたが、自分のネタが雑にパクられてしまったことへの怒りがあったのではなかろうか。

時代劇という性質上、タップダンスを全面的に取り入れることはできない。可能であるとすれば、それは観客と作品の距離感がごちゃまぜになる瞬間、つまりクライマックスのシーンのみとなる。

平和を取り戻した街の「祭」を祝うにあたって、陽気で楽しいタップダンスは驚くほどマッチしている。あの山本耀司が手掛けた農民の衣装もあわさり、ラストのダンスシーンの美しさは眼を見張る。赤宮は『座頭市』を時代劇とは考えていない。ビートたけし北野武らしく、観客を楽しませることに徹した最高のエンターテインメントだと思う。


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2021/08/27