日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ミニマリズム:本当に大切なもの/Minimalism: A Documentary About the Important Things(2016年)

ミニマリズム:本当に大切なもの/Minimalism: A Documentary About the Important Things(2016年)監督:マット・ダベラ


Minimalism: A Documentary About the Important Things (Official Trailer)

全米各地を廻り、「ミニマリスト」としての生き方を普及させる活動に取り組むジョシュアとライアン。彼らはかつて、厳しい家庭環境で育ちながらも、若くして社会で活躍し、企業内での昇進や高い年収といった成功を獲得するという、いわゆる「アメリカン・ドリーム」の体現者だった。そんな二人は、なぜ「ミニマリスト」としての生き方を選択することになったのか。そして、彼らを支える考え方、「ミニマリズム」とは一体何なのか。加熱する消費文化、歪んだ資本主義、暴走する承認欲求が支配する現代社会において、「ミニマリスト」として生きる可能性を探る。…

 

 

 

ミニマリズム:本当に大切なもの(以下、『ミニマリズム』と表記)』は、2016年にアメリカで制作されたドキュメンタリー映画だ。

現代的ミニマリスト*1の提唱者であるジョシュアとライアンの二人組を中心に、リーマン・ショック後から世界的に流行し始めた「ミニマリスト」の生き方をわかりやすく伝えたものとなっている。

赤宮は、このミニマリズムという概念を、わりと以前から知っている。政治思想史のゼミの議論にてミニマリストが話題に上がったこともあって、数年前から何冊か「ミニマリスト本」を手に取ったことがあるからだ。その思想自体は確かに興味深く、自分自身心惹かれるところがいくつもあった。

しかし、本の内容はどれもこれもあやふやで、どうもうさんくさい印象を受けた覚えがある。例えば、「人間が消費を始めたのはここ100年だ」「ものの所有は人間の本質ではない」みたいな文句がつらつらと現れてくるわけだが、どれもこれもどこか歯が浮いたような書きぶりで、読んでいてどうも頭に入ってこない*2

 

こんな偏見を持ちつつ鑑賞した『ミニマリズム』なわけだったが、これまた実に面白かった。

映画の中には「人間が消費を〜」だとか「ものの所有は〜」みたいな文句が相変わらず出てくるのだが、そこにちゃんと映像が付くので、ミニマリストが何を言いたいのかがわりと明確になっているのだ。

赤宮がミニマリストについて勘違いしていたのは、彼らが単に消費を減らそうとするだけの存在ではない、ということだ。

巷にあふれるミニマリスト本には「消費をこれだけ減らしました、質素な生活!」という、まるでダイエット本のような内容がつらつら並んでいるわけなのだが、『ミニマリズム』はそうした誤解を一つ一つ丁寧に、専門家の学術的知見を交えつつ解消していく。

彼らによれば、あくまでも消費のしすぎを戒めるのがミニマリズムの考え方であって、適切な消費はむしろ奨励されるべきものなのだ。

 

しかし、手放しで褒めていい作品でもない。

特に目につく問題は、この手のドキュメンタリーとしては致命的なほど反対意見が採用されていないことだ。登場する人びとは揃いも揃って心のきれいなミニマリストばかりで、どうも宗教団体の広告映像を見ているような気分になる。笑顔が素敵ですね、という感想しか出てこない。かと思えば、いきなり「瞑想のススメ」みたいな展開が始まって驚きを隠せない。え、やっぱり仏教系の映画なんですかこれ、最後入信とかしませんよね、と思いながら、ドキドキしながら先の展開を期待した。そういう意味では極上のサスペンス作品なのだろう。

特に際立つのが主役の二人だ。彼らはいつもどこか不自然なほど幸せそうで、見ていてどこか不安な感じがする。「その幸せの秘密こそがミニマリズムにあるんですよ!」と言われたらどうしようもないのだが。

 

あえて指摘するなら、もう少しミニマリズムを客観的に捉えた作品構成にしてほしかったと感じる。この作品に現れるのは誰も彼も楽天的な当事者ばかりで、彼らのライフスタイルに評価を与える人びとが出てこない。おそらくその評価を観客に委ねるという判断なのだろうが、これではあまりに投げっぱなしではないか。ただただ「ミニマリズムはいいぞ」とばかり言われても、こちらとしては受け入れがたいところがある。

もっと生々しい、ミニマリズムの悪しき面もあるはずなのだ。あるライフスタイルを採用するのなら、そこには何かしらデメリットも生じるはずなのだ。服を数枚しか持たずに生活するのなら、何かしら臭いが際立ったりするだろう。物を持たないことによって、社会的に不利益を被ることもあるかもしれない。そうした現実を見てみたかった。『ミニマリズム』がドキュメンタリー作品である以上、ミニマリストにしか味わえない、社会の負の側面、そういった側面こそを描き出すべきだったのではないか。

 

とまあ、『ミニマリズム』を褒めているのかけなしているのかよくわからない記事になってしまったが、個人的には色々考えるところもあって面白い映画だったと思うし、自分自身取り入れようとおもった考え方もいくつかある。最近流行りのミニマリスト生活について知りたいのであれば、よくわからない本を読むよりこの映画を90分見た方がよっぽど有益だろう。

Minimalism [DVD] [Import]

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2017/10/27

*1:ミニマリスト」自体は1960年台からある用語らしいが、現在耳にする意味で用い始めたのはジョシュアとライアンである、とのこと。

*2:今思えば、日本でミニマリズムを布教する著者の質が良くなかったのかもしれない