日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

その名にちなんで/Namesake(2006年)

世界に飛び出す勇気を与えてくれる

その名にちなんで/Namesake(2006年) 監督:ミーラー・ナーイル


The Namesake Trailer


1977年のインド、カルカッタ。歌が大好きな少女アシマ(タッブー)は、アメリカで研究者をしているアショケ(イルファーン・カーン)との見合い結婚を勧められる。気乗りがしないまま見合いの場に向かったアシマだったが、アショケが履いてきたアメリカ製の靴を見て、なんとなく彼のことが気に入ってしまった。

アシマとアショケはアメリカでの生活を始め、やがて男の子をもうける。インドでの慣習に従い、故郷の祖母に名前をつけてもらおうとする二人だったが、それには長い時間がかかる。しかしアメリカの法律では、子どもが生まれてすぐに名前をつけなければならないという。アシマとアショケはひとまず仮の名前を息子に与える。その名はゴーゴリ、ロシアの大作家からとったものだった。…

成長したゴーゴリは、インドとアメリカ、二つの国の間で揺れる自分のアイデンティティに困惑し始める。そして彼は、父から与えられた名前にも違和感を覚えるようになる。アメリカ人との交流を通じてその感覚は強まり、ついに彼は自分の名前を変えることを決意するのだが…

 

 

 

最近、「留学にオススメの映画はなんですか!」という質問を受けた。質問の意図はよくわからないが、いわんとしていることはなんとなくわかる。赤宮の答えは『その名にちなんで』だ。

 

『その名にちなんで』は2006年に公開された映画で、インドからアメリカにやってきた家族が、穏やかな生活を送りながらもそのアイデンティティと向き合っていく内容となっている。インドからやってきた両親、そしてアメリカで生まれた息子が、アメリカ文化の中で生活し、成長していく姿を描いたホームドラマだ。

前半のストーリーはいわゆる移民もので、多和田葉子の小説あたりでありそうな「アメリカという異国にやってきた主人公が、慣れない環境に不安を覚える」といった内容だ。しかし後半、息子に世代が変わるとストーリーのニュアンスが変化し、「アメリカで生まれた主人公が、自分のアイデンティティに思い悩む」という人間ドラマが展開されていく。

とまあ、こう書くと平凡に聞こえるのだが、展開に無理がなく、キャラクター造形がしっかりしている作品なので、見ていてかなり印象に残る作品となっている。

アメリカで工学を学んでいると自己紹介するアショケは、どこからどう見ても冴えない理系男。しかしカッコイイアメリカ製の靴を履いている。服ももしかすると一張羅なのかもしれない。お見合いの場面、美人で性格の良いと噂のアシマに会うために気合を入れてきたのだろう。その不器用さがなんとも愛くるしい。父親となったあとも、決して威厳のあるタイプではないが、優しく理解のある父親として息子たちを導いていく。

そしてその妻アシマの描写も良い。優しい少女から1人の女性に、そして母親へと成長していく姿がしっかりと描かれている。時たま不安を覚えて取り乱すこともあるものの、それも移民としての心ともなさからくるのかもしれないと思うと、なんとも同情したくなるところがある。

 

そして、息子ゴーゴリ、彼は…と言いたいところなのだが、彼が活躍する後半部分は何かとネタバレになる部分が多い。今日の紹介はこのくらいにしておこう。

 

 

さて、恐ろしいことに、せっかく『その名にちなんで』を「留学にオススメの映画」として取り上げたにも関わらず、それがどうしてオススメなのかを書けないままここまできてしまった。その部分を書くとネタバレになってしまう、というのが理由なので、こればかりは見てもらって、感じてもらうしかない。

突拍子もないし、多分説得力もないだろうが、言える範囲で言っておこう。『その名にちなんで』は、異国で生活する人たちに勇気を与え、そして異国に憧れる人びとの背中を後押しする映画だ。ゴーゴリら一家の生きる姿は、世界に飛び出す勇気をあなたに与えてくれる。旅をしたくなる。世界に飛び出したくなる、そんな映画だ。

2017/11/12