日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ダンス・ウィズ・ウルブズ/Dances with Wolves(1990年)

ダンス・ウィズ・ウルブズ/Dances with Wolves(1990年)監督:ケビン・コスナー

 

人生を捨てる、そして生まれ変わる


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1960年代、南北戦争時代のアメリカ。脚に深い傷を負った北軍中尉、ジョン・ダンバー(ケビン・コスナー)は、手術で脚が切断されることを悲観している。ダンバーは痛みを堪えて戦場にたどり着き、意を決して馬に乗る。死ぬことを半ば望んでいたダンバーは戦場を駆け巡り、傍から見れば無謀な動きではあったが、意図せずして北軍の囮として大戦果を挙げてしまう。対価として十分な治療を受け脚は回復、次の駐屯地への希望も叶えられてしまった。

ダンバーは「失われる前にフロンティアを見たい」と話し、サウスダコタ州の荒野にある無人の「砦」に赴任する。自給自足の生活をしながら、馬のシスコと狼の「トゥー・ソックス」と触れ合い、戦地での傷を癒やしていく。だがある日、ダンバーが池で水浴びをしていると、現地のインディアン「スー族」が馬を盗もうとする場面に遭遇してしまう。…

 

 

 

ダンス・ウィズ・ウルブズ』は1990年公開の西部劇映画だ。南北戦争時代のフロンティアを舞台に軍人とインディアンの交流を描いた作品で、監督は『フィールド・オブ・ドリームス』などでしられる俳優のケビン・コスナー

「二枚目俳優が監督を務める」ということ下馬評は高くなかったというが、結果的に同年のアカデミー賞を獲得、興行収入的にも大成功を収めた。本作品をきっかけにケビン・コスナーの名声は高まり、俳優としてのキャリアに加え、監督や制作でも評価を得る存在となった。

 

 

 

本作のオープニングシーンはコスナー演じる主人公ダンバーが脚を手術する場面から始まる。劇中で語られることはないが、戦時中何らかの要因で負傷したダンバーは、衛生環境の悪い野戦病院で目を覚ます。「脚を失うくらいなら」と強い思いで病院を抜け出し、戦場に飛び出て、自殺行為にも思える乗馬で銃弾飛び交う平原を駆け巡る。

ダンバーが南北戦争について苦しい思いを抱いていたのは間違いない。ダンバーの行為は結果として戦いの勝利に貢献し、皮肉なことに英雄として「名誉」を与えられてしまう。だが彼が次の赴任地として希望するのは未開のフロンティアだ。自分の名前や名誉、戦争の匂いから逃れ、失われつつある「何か」を求めてフロンティアに向かう。

 

 

 

ダンバーはそこでインディアンたちと出会った。初めは敵意を抱かれていたが、部族の女性を救ったことがきっかけに交流を持つようになり、やがて仲間の一人として認められるようになる。

インディアンたちには名前がなく、それぞれが「蹴る男」「拳を握りしめる女」といった呼び方をされている。バッファローの狩り、そして異民族との戦いを経て尊敬を得るようになったダンバーの呼び名は、「狼と踊る男(ダンス・ウィズ・ウルブズ)」。

 

 

 

ダンバーはフロンティアでかつての名前を捨て、軍服を着なくなり、制帽をインディアンにあげてしまう。インディアンとの交流で彼は少しずつ「北軍中尉」としての立場や過去を捨て、民主主義や自由といった大義のために生きる態度を捨て去っていく。そこにいるのはただ一人の「狼と踊る男」。異民族と戦った理由も大義のためではなく、一緒に生活する仲間を守るためだった。

 

 

 

季節が変わり、インディアンのスー族は住む場所を変えるべく移動を始める。もちろん同行しようとする「狼と踊る男」だったが、かつて住んでいた「砦」に重要な忘れ物をしてしまったことに気づく。久方ぶりに「砦」に戻った「狼と踊る男」を待っていたのは、フロンティアを開拓すべくやってきた北軍の軍人たちの姿だった。

軍人たちは馬や狼を殺し、さらにはインディアンの風貌をした「狼と踊る男」を捕まえ縛り上げてしまう。インディアンの通訳として働けという申し出を断り、裏切り者として司令部に輸送されていく。

 

 

 

かつては軍隊で英雄だった。今や身も心もインディアンとなりつつある「狼と踊る男」は、葛藤の中でどのように答えを出していくのか。インディアンの歴史が語るとおり、本作は決してハッピーエンドではない。それでも、少し希望を残すような『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のエンディングが、私は好きだ。

 

2021/08/25