日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ロイドの用心無用/Safety last!(1923年)

ロイドの用心無用/Safety last!(1923年)監督:ハロルド・ロイド

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(予告編だけで大体面白さが伝わる、それがロイドの凄いところ)

 

ボーイ(ハロルド・ロイド)は、アメリカン・ドリームを実現すべく、故郷を離れて都会に向かう。都会の華美なテーラーで修行を始めたボーイだったが、給料は安く、まだまだ出世は望めそうもない。

そんなある日、ボーイの恋人ガール(ミルドレッド・デイヴィス)が上京してくる。どうやらガールは、ボーイがすぐにテーラーで成功を修めたと勘違いしてしまったらしい。格好つけのボーイはそれを否定できず、ついつい重役になったのだとホラを吹いてしまう。

嘘をついてしまったボーイだったが、もちろん大金持ちになどなっていない。しかし、後ろめたさを感じる彼の元に、突然儲け話が転がってきた。勤務先のテーラーで集客企画を組むことに成功すれば、総支配人が大金を支払ってくれるというのだ。…

 

以前紹介した『ロイドの人気者』と同じく、世界三大喜劇王の一人、ハロルド・ロイドの白黒サイレント作品だ。『ロイドの用心無用』は1923年に公開された作品であり、1925年の『ロイドの人気者』より以前の作品となっている。

若者の生き方、挫折、そこからの復活を描き、深みを持ったコメディを確立した『ロイドの人気者』と比べると、『ロイドの用心無用』はかなりコメディに振り切った作品だ。恋人に嘘をつく主人公、というなんとなくムズムズするようなロイドらしさこそあれど、『ロイドの人気者』で示されたような葛藤といった要素は見られない。純粋に笑える映画としてみることができるだろう。

世界三大喜劇王の残り二人、チャップリンキートンと比べると、ロイドはアイデアで勝負したコメディアンであると評価されることがある。この作品でもありとあらゆる方法を使って笑いを取りに来ており、「え、そこまでするの?」と思わずにはいられない部分が多数ある。後半、高層ビルの壁面をひたすら上っていくシーンがあるが、あれはなんとスタントを使っていない実写だそうだ。途中、何度も落ちそうになる場面があるが、それら全てがリアリティ溢れるものになっていたのは、ロイドのアイデア豊かなプロット、そしてそれを実現してしまうバイタリティによるものなのだろう。

そうしたアイデアに富んだプロットは、副産物として極上のサスペンスをもたらしている。奇想天外な出来事に巻き込まれ続けるロイドの姿は、「一体次はどうなるのだろう…」という期待を観客に抱かせる。徐々に期待は上がっていくのだが、ロイドのコメディは上がり続けるハードルを見事超えていくのだ。

 

そうしたコメディとサスペンスの陰に隠れがちではあるが、ストーリーもそう悪いものではない。嘘をついてしまった恋人に対し、豊かな生活をさせてあげたいという思いから奮闘するロイドの姿は、見るもの全てを惹きつける魅力を放っている。

そしてなにより、ロイドが演じる青年の姿は、いつだってごくありふれた人の姿をしているのだ。ロイドになら、なれる気がする…不器用だけど底抜けに明るいロイドの姿は、かれこれ100年近く人びとの心を掴み続けている。

 

ロイドは周りの人びと全てに、そしてスクリーンの向こうの観客たちに笑いを届け続ける。たとえ少しくらい嫌なことがあった日でも、ロイドを観ていると明日も頑張ろうという気になれる。『ロイドの用心無用』、おすすめです。 

ロイドの要心無用 [DVD]

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2017/11/8