日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(2017年)

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(2017年)監督:アンディ・ムスキエティ

 

 

ごっこ

 

 

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雨の強く降る日、ジョージ(ジャクソン・ロバート・スコット)は、兄のビル(ジェイデン・リーバハー)にお話をせがむが、彼は体調が悪いと言ってそっけない。代わりに、ビルはジョージのために紙で作った丈夫な船を作ってくれた。

ジョージは綺麗にコーティングされた船を持って家を飛び出し、道を滑らかに流れる水の上に船を浮かべる。紙の船は水の流れに乗ってうねうねと流れていく。それを元気に追いかけていくジョージだったが、目の前のバリケード看板をうまくくぐれず、頭をぶつけて転んでしまった。流れ続ける紙の船。排水口が近づいて、そのままスルリと流れ込んでしまう…

 

 

 

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(以下、『IT』)*1』は、2017年に公開されたスリラー映画だ。アメリカの偉大なホラー小説家、スティーヴン・キング原作の『IT-イット-』を映画化したもので、北米では『シックス・センス』を超えて歴代ナンバーワンの興行収入を記録した。

スティーヴン・キング原作の映画には名作が多い」と言われる。『ショーシャンクの空に』、『グリーンマイル』、『ミスト』、さらには『シャイニング』。いずれも赤宮お気に入りの作品だ。ドラマからホラーまで様々な作品を手がけ、今なお精力的に活動するキングの魅力が詰まっている。*2

 

そうした過去の作品との類似で考えるならば、今回の『IT』には『スタンド・バイ・ミー』的な要素がふんだんに詰まっていると言っていい。少しだけ上の世代からいじめてくる子どもたち。そして大人の、ある種の理不尽さ。こうした苦難に、思春期を迎えようとする子どもたちがどのように立ち向かっていくのかが『IT』のテーマの一つだ。主人公たちはそれぞれ自分の心や家庭に問題を抱えており、それを乗り越えていく過程が細やかに描写されている。

最終的に7人にまで膨れ上がる主人公たちは、時に怯えながらも、立ち現れる困難に力強く立ち向かう。上の世代の子どもたちや大人はかなり暴力的で、彼らの存在は常に脅威として写ることになる。しかしそれでも主人公たちは諦めない。仲間同士力を合わせて、勇気を持って闘い続けるのだ。

 

 

 

…早く本題に移れって?

まあ、そのとおりだ。キング原作のホラー小説『IT』が、単なるヤンキーやゴロツキとの闘いで終わるはずはない。この作品を特徴づけるのは恐怖、つまりはペニーワイズだ。

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怖すぎるわ。

 

 

 

子どもたちにしか見えない、恐怖の象徴として語られるペニーワイズは、劇中さまざまな形を取りながら暗躍し、子どもたち、というか観客を恐怖の渦に叩き込む。

ペニーワイズはほとんどの場面でローアングル撮影されている。これは彼を「子どもたちが見上げる存在」として描くことが意図されており、この撮影方法によりペニーワイズは常に「覆いかぶさるような」恐怖として子どもたちに襲いかかる。そして観客は子どもたちの主観を通じてその恐怖を実感する。恐怖の象徴、どうしようもない恐怖として執拗に恐怖を与え続けてくるわけだ。

執拗に、と書いたが、本当に執拗にやってくる。本当に。いや、そこで来るの?って場面で何度も何度も現れる。そのたびに観客は大声を上げて「うわぁああああああああ」となってしまう*3

 

とはいえ、そうした恐怖をものともせず、ちゃんと立ち向かうあたりが、なんというかアメリカらしい映画だ。散々ペニーワイズにしてやられておきながら、子どもたちは何度でも彼に立ち向かい、最終的には驚くべき手段を選択する。本当に驚くべき手法だ。ホラー映画ではなかなか見たことのない、シンプルイズベストな方法で、子どもたちはペニーワイズに直面する*4

これをどう評価するかは人によるだろう。赤宮としては、ある種割り切ったアメリカニズムな展開が割りと好きなので、今回の『IT』には合格点を与えたい。しかしキング原作の『ミスト』や『シャイニング』といったスリラー作品に並ぶかというと少し微妙なところもある。友人と見に行くスリラーとしては及第点だが、今後長く語り継がれる作品かというと…といった印象だ。 

IT〈1〉 (文春文庫)

IT〈1〉 (文春文庫)

 

2017/12/1

*1:「イット “それ”が見えたら、終わり。」⇐こんな邦題付けたやつに、小一時間説教してやりたい。そもそもこの文脈での「IT」は「鬼ごっこの鬼」で、執拗に追いかけてくるペニーワイズを意図したものなのに…

*2:ダークタワー』は忘れよう。

*3:体験談

*4:赤宮はこの作品を劇場で見たが、劇場内の応援ムードと合わさって、正直爆笑した。