日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ハッピー・デス・デイ/Happy Death Day(2017年)

ハッピー・デス・デイ/Happy Death Day(2017年)監督:クリストファー・ランドン

彼女は何度でも、同じ誕生日を迎え続ける。

※追記:初期の記事であらすじの書き方が雑だったので書き直しました。2017/11/13


Happy Death Day - Trailer HD


時計台の鐘の音。9月18日の朝。女子大生ツリー(ジェシカ・ローテ)は、見知らぬベッドの上で目を覚ました。どうやら昨晩、見知らぬ男カーター(イズラエル・ブルサード)と意気投合し、その勢いで彼の家まで来てしまったらしい。半ば自分に呆れつつ、苛立ちながら家を飛び出すツリー。携帯には、険悪な関係にある父親から着信が入っている。今日は、ツリーの誕生日だ。

劣等生のツリーにとって、大学生活は面倒なことばかりだ。面倒な友人付き合いや、自分に付きまとう男友達。おせっかいを焼いてくる同居人。教授の愛人をするのにも疲れた。今晩もパーティに行かなければならない。

パーティに向かう途中、ツリーは暗い、小さなトンネルにさしかかった。道の真ん中にはなぜか、「ハッピー・バースデイ」のメロディを奏でるオルゴールがポツンと置かれている。友人の誰かがイタズラしたのかと考え、暗闇に向かって声をかけるツリー。しかし返答はない。

代わりに、背後に嫌な気配を感じた。恐る恐る振り返ると、そこには、子供の顔のお面を被った、体格の良い人物が立っている。警察を呼ぶと叫ぶツリー。お面の人物はそそくさとその場を去っていった。胸をなでおろし、再び歩き出したツリーだったが、お面の人物は突然背後からツリーに襲いかかる。めった刺しにされ、意識が遠のいていく。…

時計台の鐘の音。9月18日の朝。ツリーは、見覚えのあるベッドの上で目を覚ます。そこには、見覚えのある男の姿があった。刺されたはずなのに、「昨日」の記憶ははっきり残っているのに、携帯電話の日付は9月18日を指している。そして、カーターは、「昨日」と全く同じ言葉をつらつらと話し始める。…

 

実をいうと、この映画はアメリカでも公開前(2017年9月17日現在)なのだ。縁あって試写会に呼んでいただいた。「ネタバレしないブログ書いてるんですけど今日書いていいですか?」と聞いたところ、OKと許可をもらったので、まあいつも通り書くことにした。ありがとう、ウィスコンシン大学マディソン校映画サークルの皆さん。

 

主役のツリーを演ずるのはジェシカ・ローテ(『ラ・ラ・ランド』)。予告編やストーリーから察しがつくように、ループもの、殺人ものである。「殺された瞬間、その日の始まりにタイプスリップする。殺人の謎を解かないと、あなたはこのループから出ることはできない」というのがこの映画の概要だ。日本のウェブ漫画とかでよくありそうな設定である。

 

とはいえ、単なるよくある日本映画の劣化コピーではない。この映画のすごいところは、一見すると完全にサスペンスなスリラー映画を、爆笑必至のコメディ要素と上手く組み合わせ、極上のエンターテインメントとして仕立て上げている点だ。とにかく笑えるのである。

まず、映画開始からしばらくの間、主人公のツリーはひたすら「嫌なヤツ」として描かれる。ひたすら無愛想なのだ。感じの良い青年カーターや、愛人関係にある教授、その他友人たちに対するツリーの態度は、およそ好意の持てるものではない。「いやー、こいつ多分、ホラー映画で真っ先に殺されるタイプの女ですわ」と観客に思わせる撮り方をしている。そして実際殺される。「いやー、やっぱりこいつ殺されましたわ」となる。だけどすぐ蘇ってしまう。『ハッピー・デス・デイ』は、「ホラー映画で最初に死にそうな女性が何度も殺され続ける」という、ありそうでなかった設定をうまく組み上げた作品だ。

 

そして何故か、襲撃シーンが笑えるのだ。殺人鬼が迫ってくる、緊迫したシーンのはずなのに、殺人鬼はどこが間が抜けている。殺人シーンのどこかしらに、必ずといっていいほど笑えるポイントを挟んでくる。何度も何度も繰り返すうちに「殺人鬼…!今度は手間取るな…!」という謎の共感すら生まれてくる。

 

ループ設定を活かした笑いも上手い。内容は伏せるが、中盤でツリーは、カーターと相談し、とある方法で真相を究明することを決意する。その方法が、「いや、それって確かに正論だけど、それやっちゃっていいの?」と言わずにはいられないやり方なのだ。その方法をなんだかんだ言って真面目にやり遂げていくツリーの健気さが、これまた可愛くて笑えてしまう。ループだと分かったあたりで、「せっかくやし一周くらい楽しむか〜〜〜」といった感じで開放的になるシーンも必見だ。

 

まとめると、なんというか、かなり緊迫感もあって、サスペンスサスペンスしているにもかかわらず、全体として凄く楽しいエンターテインメント映画だ。傍から見て悲惨な展開が続いていても、当の主人公たちがあまり気にしていない感じがある。「まあ次の周で何とかするか〜」みたいな顔をしている。なので、観客も笑って良い気がしてくる。笑っちゃっていいか、みたいな、そんな笑いが生まれる。

 

しかも、笑いだけでは終わらない。爆笑必至のシーンが終わっていくに連れ、物語は少しずつ深刻さを増していく。ループを経て少しずつ成長していく主人公と、全く変化しない周囲の状況。徐々に明らかになる、主人公の過去。なかなか周囲に対して正直に接せられない主人公が、心を開いていく過程。

『ハッピー・デス・デイ』は、今流行りの脱出系ループものの形式を採用している。しかしその実、そのテーマは恋人や親子、友人たちとの人間関係の修復、あるいは形成を丁寧に描いた作品であると思う。

 

思う存分笑って、その上、思った以上にハートウォーミングになって帰れることうけあいだろう。

 

本作では、“today is the last day of the rest of your life"という名文句が、皮肉を込めて、何度か引用される。その意味合いがシーンごとにどのような意味合いを持つのか、よく噛み締めて楽しみたい。

 

2017/9/27 ※一部追記2017/11/13