日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

京大7年目の男子が選ぶ百万遍周辺ランチ10選

京大7年目の男子が選ぶ百万遍周辺ランチ10選/My 10 Memories in Kyoto University(2018年)

 

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 京都のごはんは、他のところで食べるごはんより、どこか穏やかな味がするように思う。地域色がそれほど強く出ているわけではない。京都のごはんに、あまり尖ったところはない。けれどとても温かい味がする。一つ一つのごはんが、僕たちの記憶に長く残っていく、そういうところがある。

  友人のうちの何人かが、京都を去るとき、あるいは去ってから、京都のおいしいお店を紹介していた。僕も、いつか京都を出ていくときには、そういう素敵なごはんを食べられるお店をまとめてみたいなと思っていた。全然ランチじゃない店だとか、もはや百万遍周辺じゃない店だとかがいくつか混じっているが、そのあたりは許してほしいと思う。

  ちなみにタイトルは、先輩が昔執筆された記事( 京大7年目の女子が選ぶ百万遍周辺ランチ )のリスペクトとなっている。…

 

 

1.goya

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 百万遍を東に、今出川通をずっと上っていったところにある沖縄料理店。比較的安価でゴーヤチャンプルータコライスの定食ランチを食べることができる。野菜の価格高騰もなんのその、たっぷりの野菜をぜいたくに使った料理は、野菜不足気味な学生にとってなんともありがたい。夜はオリオンビールが美味い沖縄居酒屋と化す。

 

 アルバイトをクビになったらgoyaに行くという自分ルールがあって、焼肉屋調剤薬局、特許事務所をクビになった時にはいつもgoyaゴーヤチャンプルーを貪り食っていた。クビになったショックを抱えたままふらりgoyaの建物に入ると、なんとも元気そうな店員が迎えてくれ、あれよあれよとうまい料理を作ってくれる。理不尽な悲しみのうち八割は野菜をたっぷり食べると解決する。goyaのうまい料理を食べると、たちまち元気になってしまう自分が居た。

 

2.あかつき

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 白川通り、市バス北白川校前駅を降りてすぐのところにあるラーメン屋さん。豚骨鶏ガラ醤油ダレという伝統的な京都ラーメンを出してくれるお店。道路を挟んで向かい側に「東龍」「福仙楼」というラーメン屋もあって、そちらを勧める人が多い。ただ個人的には、あかつきが出してくれる味の濃いラーメンも好きだった。おすすめメニューは「あかつきスペシャル」、チャーシューメンにキムチと刻み肉を乗せた欲張りラーメン。学生証提示で100円引き。

 

 夜中3時まで営業しているから、3次会くらいまでもつれた飲み会のシメでよく通った。あかつきのスタンプカードには、スタンプを全て貯めるとからあげや餃子がたっぷり食べられるサービスがある。大学2回生くらいのころ、夜中に誘われてあかつきに行った時、友人のスタンプカードを使って、食べきれないほどの料理を2人で貪った。金欠だった僕にとって数日ぶりに食べたまともな食事で、あの時食べたからあげや餃子、あかつきスペシャルの美味さは、今でも舌のどこかに残っているような気持ちがする。

 

3.華祥

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 百万遍を北に上り、御影の交差点の北東にある中華料理屋さん。マスターはさる有名店で活躍なさっていた方らしく、学生街らしからぬ高級なお味を堪能することができる。ランチは麻婆丼とあんかけ焼きそばの二種類。付け合せのザーサイもいい。店内にはなぜかいつもビートルズが流れている。音楽に合わせて口ずさんでいると、料理人の一人がこちらを見てニヤッと笑ってくれたことがある。

 

 ゼミの後輩で華祥が好きな人がいて、その人に連れられて何度も通った。キリンビールの瓶をみんなで分けて、蒸し鶏にネギソースをかけたものをつまみに飲んだ。政治思想史なんていう面倒くさいゼミに通ったものだから、話し合う内容はどこか格調高くて青臭くて、社会や政治の動きに切り込んでみて、思う存分議論して、心身ともにお腹がいっぱいになった。

 

4.シズク

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 今出川通を東に進み、「お地蔵さんの坂」を上った途中を左に曲がったところにある。映画『マザーウォーター』の舞台になったカフェで、店内はまるで時間が止まったような雰囲気に包まれている。そんな異世界みたいな空気が漂っているのに、出て来る料理はどこか馴染みのあるものばかりで、そのギャップが少し楽しい。豚の角煮定食、それとキムチ雑炊がオススメ。

 

 誰かと膝を突き合わせて話したいなあと思ったとき、いつもしずくを使っていた。昔住んでいた家から数分のところにあって、ソファーが柔らかくて、あとコーヒーが美味しい。真昼でも照明が薄暗くて、何かものを考えたくなる、そんな気分にさせられる。だいたい15時くらいにやってきてコーヒーを頼み、夕方まで話そうという予定を組むんだけど、大抵話が盛り上がりすぎるので、結果として夕食も頼み、夜遅くまでおしゃべりを続けることになる、そんなカフェだった。

 

5.さるぅ屋

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 出町柳駅ファミリーマートのすぐ近く、今出川通沿のカフェ。安物でない、ファストでない、本物ハンバーガーを食べたくなったときに足を運んだ。20歳の自分はモスバーガーこそハンバーガーの頂点だと思っていたのだけれども、世界は広い、ハンバーガー界にはまだ見ぬ猛者がたくさんいるのかもしれない、という認識を持つに至った。

 

 上記のブログを執筆なさった先輩曰く、「完璧なハンバーガーというものがあるとしたらおそらくここのものだろうと18の頃から思っていたが、今もその考えは変わらない。(上記記事より引用)」らしい。焼きたてのパンのカリッとした表面と、柔らかい中身のギャップがたまらない。ハンバーグもジューシーで、何度でも通いたくなる。さるぅ屋を知ったのは先輩の紹介、それまで京大食堂のヘビーユーザーだった僕が、百万遍近辺のお店に通い始めるきっかけになった。

 

6.進々堂

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 百万遍を少し東に行ったところにある喫茶店。三条あたりにあるチェーン店とは無関係。90年近い歴史を持つ、京大周辺きっての歴史的名店。京大の歴史を作った偉人たちがこぞって通ったとされるお店で、彼らが愛したという木製のテーブルと椅子が、荘厳な雰囲気をまとって店中に並んでいる。

 

 京都大学に通ったら、進々堂に行くと決めていた。『夜は短し歩けよ乙女』のラストシーン、「先輩」が「乙女」に会いに行くシーン、あの光景に憧れていたからだ。思いが叶って大学合格、新歓飲み会で朝まで過ごした後、満を持して進々堂に向かった。到着してカレーパンセットを注文、カレーとパンが別々に出てくるという斬新なセットをむしゃむしゃと食べて、ここに来れて良かったと思った。残念ながら乙女は居なかった。

 

7.のら酒房

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 百万遍の北西の角の建物を二階に上ったところにある。うまいつまみと多種多様なお酒が美味しい。おでんとかチョリソーだとか、いい感じの飲み屋に置いてあるメニューがだいたい置いてあって、そのすべてがとっても美味しい。店の照明が暖かいオレンジ色を帯びているから、ここでの思い出は、まるでインスタのRISEフィルターみたいな、暖色がかった映像として記憶されてしまう気がする。

 

 とりあえずビールならぬ、とりあえずのら酒房。のら酒房は他の店よりも深い話ができる場所なのに、他の店よりも誘うハードルが低い。一度飲み明かしてみたい人を誘うとき、のら酒房はうってつけの場所だった。横のタイカレー屋「こあの助」でイエローかグリーンのカレーを食べて、そのままのら酒房に直行する。泡盛ハートランド、日本酒を適当に頼んで、あれやこれやと飲み明かしているうち、いつの間にか深い話もできてしまう。のら酒房がなければ、僕の友人の数は3割くらい減少したのではなかろうか。

 

8.ガボール

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 百万遍からしばらく(?)歩き、三条大橋を東から西に渡り、ローソンとセブンイレブンのちょうど間らへん、ぽつりと置かれた階段を降りたところにある喫茶店。フランス映画好きの店長があしらったであろう、ヌーベルヴァーグを意識したかのような、穏やかで美しい、けどどこか狂った内装が素晴らしい。なぜか椅子が空中に浮かんでいる。いつかあのイスに座ってみたいなあと思っていた。名物のガボールティーとコロナサンドイッチを味わうのが王道。

 

 三条あたりで数少ない夜カフェ。平日は25時、休日は24時まで営業していて、夜にふと読書をしたくなったときとか、1人で終バスに乗ってやってきた。あるいは、木屋町で飲み会を終えたあと、ふらふらする頭の酔いを覚ますため、友人たちがラーメンに行くのを横目に1人でふらっとやってきた。レモングラスが程よく効いたガボールティーは、砂糖なしでもごくごく飲める美味しさだけれども、粒の粗い砂糖を入れると素敵なスウィートティーに変貌する。人のいなくなった店内、日が変わる瞬間にガボールティーを飲むとき、まるで世界で1人きりになったみたいな、不思議な錯覚に襲われる。

 

9.茶夢

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 御影通りを東に少し入って、元田中駅に向かう細い路地を歩いたところにある洋菓子屋さん。何を頼んでも美味しいのだけれども、個人的なオススメは焼き菓子。1000円分詰め合わせてくれますか、とお願いすると、適当にオススメを詰め合わせてくれる。自宅で紅茶やコーヒーを淹れる際、茶夢のお菓子があると期待度が膨れ上がる。誰に食べさせても美味しいと言ってくれる。笑顔が絶えないティータイムが出来上がる。

 

 紅茶の好きな友人に誘われて、よく紅茶会をした。茶夢の茶菓子は紅茶のおともにぴったりで、道すがら1000円分買って、紅茶と一緒に美味しく食べた。素敵なお菓子は紅茶の減りを早めるので、5ポットくらいの紅茶を朝までみんなで楽しく飲んだ。随分長い間話したはずなのに、それでも話のネタは尽きない。朝日がやってきて、若干の名残惜しさを感じつつ、ではまたね、といって解散する。

 

10.キッチンごりら

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 京大北部キャンパスを北門から出て、住宅街を少し北に行ったところにある洋食屋さん。自衛隊出身だという大柄で温和、素敵なお兄さんが、繊細な手つきでうまい料理をたくさん作ってくれる。これまで世界中の色んなステーキを食べたけど、僕はここのポークステーキよりうまいステーキをまだ知らない。イタリア産肩ロース、どろぶた、にんにく醤油、バルサミコ…ポークステーキだけでもこんなに種類があって、思い出すだけでよだれが出そうになる。お米も汁ものも美味しい。実は白ご飯が少し苦手な僕が、世界で唯一おかわりを頼んでしまうお店だ。

 

 学部生のころは貧乏暮らしをしていて、キッチンごりらは滅多にいけない店だった。けれど、大学院で奨学金をもらうようになって生活が安定し、バイト代でキッチンごりらに通うようになった。店内は、大木をそのまま切り出したような趣味の良いテーブルやインテリアで彩られている。カウンターテーブルに座って、料理人のお兄さんがステーキを焼いてトンカツを揚げ、色んな料理が生まれていく豊かな過程を眺める。単調な大学院生活の中、週に一度、最高のリラックスタイムだった。

 夜遅く、閉店間際に1人で訪れると、客は僕だけということもあった。そんな日はお兄さんと他愛のない話をする。僕がニューヨークで食べたステーキの話をすると、店の名前も言っていないのに、そのステーキがどこの店のものかを言い当ててしまう。お兄さんアメリカに行かれてたんですかと尋ねると、本で見ただけですよと笑って答える。この通りお兄さんはとんでもない肉マニアで、おかげで僕は随分お肉に詳しくなった。

 

 京都を離れる最後の日、少し出発を遅らせて、キッチンごりらに向かった。学部の卒業式の日で少し混んでいたのだけれども、カウンターが一席だけ空いていて座らせてもらった。お兄さんはいつも通りうまいステーキをたくさん焼いて、うまい料理をたくさん作って、お店にやってくるたくさんの人びとを笑顔にしていた。

 にんにく醤油のポークステーキはいつも通り美味しかった。店が混んでいたので、食べ終わってすぐに会計をお願いした。前もってお兄さんには京都を離れることを伝えていたので、「東京でも頑張ってくださいね」と声をかけられた。少し感極まっていたのだろうか、自分が何と答えたのを、よく覚えていない。「これまでありがとうございました」みたいなことを答えたような気がする。店を出て、感謝の意を示したくて、ガラス越しに深々と頭を下げた。

 

 

 

  退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らずさよなら京都(栗木京子「水惑星」)

  

 

 

 さよなら京都。

 

 

 

2018/3/30