日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

コラテラル/Collateral(2004年)

コラテラル/Collateral(2004年)監督:マイケル・マン

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Collateral Movie Trailer

タクシー運転手のマックスは、いつかはリムジン会社を経営したいと夢見ながら、無為な毎日を送っている。ある晩、いつものようにマックスが運転していると、ビジネスマン風の男がタクシーを止めてきた。ヴィンセントと名乗るその男は、今晩いくつか回りたいところがある、と言い、一晩のタクシー貸し切りを申し出てた。規定違反になる、と渋るマックスだったが、ヴィンセントが差し出した600ドルという大金を見て、つい彼の申し出を受けてしまう。

マックスはヴィンセントの指示通り車を運転する。一つ目の目的地に到着すると、ヴィンセントは颯爽とタクシーを降り、自分が戻ってくるまでここで待っているよう言った。マックスは車内に一人取り残される。申し出を受けたことを、少しずつ後悔し始めていた。

 

突然、車の真上から、死体が降ってきた。

 

死体を前に、慌てふためくマックス。そこにヴィンセントが悠々と戻ってくる。マックスは「お、おい!こいつが突然落ちてきたんだ!もう、死んでる…!」と、状況を説明する。しかしヴィンセントは表情を変えない。死体を一瞥して「その通りだ」と返答する。「お前が殺したのか?」「いや、違う。俺は撃っただけだ。殺したのは弾丸だ」驚愕するマックスだが、ヴィンセントは相変わらず顔色ひとつ変えることはない。そして口を開く。「おい、死体をトランクに詰め込むから、トランクを開いてくれないか」。

 

マックスはタクシーの貸し切り契約を解除しようとする。しかし、既に600ドルを受け取ったことを理由に、ヴィンセントがそれを許さない。標的は五人居る。一人は死んだ。ヴィンセントが残り四人を殺すまで、契約を終えることは出来ない。…

 

好きな俳優は? と聞かれて、トム・クルーズ、と答えることがある。意外な顔をされることが多い。「日本の俳優で誰が好き? って聞かれて、『キムタク』って答えるようなものだよ」…なるほど。そうなのかもしれない。

ハリウッドの「ナイスガイ」が誰か、と聞かれれば、トムがかなり上位にくるのではないだろうか。『トップガン』『ミッション・イン・ポッシブル』…いつだって彼はナイスガイを演じ、ナイスガイらしく難題に取り組んでいく。それをかれこれ数十年続けている。だからこそトムは、アメリカの誇る「ナイスガイ」足りうるのだと思う。

しかし、このように「ナイスガイ」ばかり演じているトムだから、必然的に気の毒な評価を与えられてしまうことになる。「トム・クルーズは何を演じてもトム・クルーズ」。「キムタクは何を演じてもキムタク」みたいなものなのだろう。


そんなトムが、敵として、冷酷な殺人鬼を演じる映画がある。それがこの『コラテラル』である。そして、数あるトム・クルーズ出演作の中でも、「コラテラル」の面白さは群を抜いている。なにせトムが冷酷なプロの殺し屋、つまり悪役を演じるのだから。日本でいうと、キムタクが混じりっけなしの悪役を演じるようなもの。面白いに決まっている。

トム演じるヴィンセントは、完璧な殺し屋として君臨する。ヴィンセントの言葉からは、彼の倫理観は一つ一つズレていることが伺われる。そしてこのズレが、ヴィンセントという殺し屋が一般的な倫理観とは違う世界で生きていることを示している。しかし皮肉なことに、ヴィンセントの人生観、生き方を聞いていると、それが、われわれ一般の人びとの持つ倫理観よりも、よっぽど本質を捉えているように見えるのだ。そしてそうした「ズレた」、しかし本質を突いた価値観に従って生きるヴィンセントは、大金を受け取って殺しを続け、周囲の人びとよりも遥かに大きな成果を収める、成功者として描かれている。

殺し屋ヴィンセントは、平凡なタクシードライバーである主人公マックスとの対比でその完璧さを増していく。「平凡で、善良で、倫理的に正しい」マックスは、タクシーを運転して小銭を稼ぐ生活を送っている。いつも大きな夢を語るばかりで、それを実現させる努力をすることはない。他方、「完璧で、冷酷で、倫理的に誤っている」はずのヴィンセントは、自分の人生に疑いを抱かない。その表情は冷酷だが、自信に満ちている。人生を謳歌している者の顔だ。

コラテラル』は、「完璧な悪人」と「平凡な善人」を対照的に、非常に上手く描いた映画だ。この悪人の「完璧さ」を示すために、トム・クルーズの「ナイスガイ」っぷりが非常にうまく作用している。観客はこれまで見てきたトムの映画から、いつの間にかトムを「完璧なナイスガイ」であるかのように錯覚している。この錯覚が強いほど、ヴィンセントの悪人っぷり、その完璧さが増す仕組みになっている。

そうした完璧な悪人に対して、「平凡な善人」マックスが少しずつ成長していくのが、この映画のプロットだ。クライマックスに差し掛かる部分、マックスとヴィンセントはとある普遍的なテーマについて、異なる価値観をぶつけあう。ここで、それまではヴィンセントに言い負かされてばかりだったマックスが、初めて、平凡な善人として出来る限りの反抗を彼に示してみせる。この場面で、マックスは単にヴィンセントを倒そうとするだけではなく、これまでの情けない自分をも同時に葬ろうと、文字通り決死の覚悟で抵抗する。全身全霊を賭して、あらんばかりの勇気を振り絞って、マックスはヴィンセントに勝負を仕掛ける。

 

もしあなたが、自分を「平凡な善人」であると考えているなら、ぜひこの映画を見てほしい。きっとあなたに勇気を与えてくれるはずだ。


Collateral Tom Cruise training

(撮影にあたってのトムのトレーニング。カッコイイ)

 

コラテラル (字幕版)

コラテラル (字幕版)

 

2017/9/28