日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~(2018年)

映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~(2018年)監督:高橋渉

 

平和を実現するのは正義なのか

 


『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~』予告

 

いつも自信なさげなマサオくん(一龍斎貞友)が、これまたいつものように不良幼稚園児たちに絡まれている。しかし今日のマサオくんは一味違った。不良たちを前にして、洗練されたカンフーの型を見せつけるマサオくん。あまりにも切れ味鋭い彼のカンフーは、触れればヤケドしそうな雰囲気を漂わせていた。

今日のマサオくんはどこかおかしいゾ。しんのすけ矢島晶子)たちカスカベ防衛隊は、威風堂々と立ち回るマサオくんを尾行することにする。歩いた先にあったのは、春日部で古くから発展してきたチャイナタウン、「アイヤータウン」。マサオくんが向かった先は、伝説のカンフー「ぷにぷに拳」の修行場だった。…

 

 

 

『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』は、劇場版クレヨンしんちゃん26作目の作品だ。以前の記事で述べた通り、赤宮は劇しんとともに育ってきたような人間なので(実際のところ同い年だ)、今年も欠かさず映画館に向かわせてもらった。

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今回の『カンフーボーイズ』の製作が発表されたとき、劇しんファンの殆どが強い期待を抱いていたことは間違いない。なんといっても高橋渉監督の再々登板なのだ。

劇しん22作目『ロボとーちゃん』で鮮烈な長編作品デビューを飾った高橋監督は、近年の劇しん再興を決定づけた監督といって間違いない。「とーちゃんのロボット化」という思いもよらぬアイデアにより、これまでの劇しんが踏み込めなかった領域に突入した同作は、「クレヨンしんちゃん」というブランドに多くの可能性がひそんでいること、そしてそれを追究することの価値を提示したといっていい。加えて、商業的にもそれまでの劇しん歴代3位の興行成績を叩き出し、長きにわたって停滞していた劇しんブランドを復活させる契機を与えた。『ロボとーちゃん』後の劇しん作品の興行収入は全て15億円を突破している。

(ちなみに、名作と名高い『オトナ帝国』や『戦国大合戦』は、いずれも15億円に達していない)

 

そんな高橋監督が2016年の『ユメミーワールド』以来2年ぶりの再登板だ。今回の作品に見られる特徴の一つは、「キャラクターの原点回帰」だろう。熱心な読者でないと忘れているような名脇役たちが多数作品に登場している。埼玉紅さそり隊の3人やミッチー・ヨシリン、ロベルトといった初期アニメのファンにはたまらない脇役が多く画面に映ってくる。まさか「またずれ荘」の四郎くんをもう一度しっかり銀幕で見れるとは思ってもみなかった。

 

「原点回帰」は、既存のキャラクターを登場させるだけにとどまらない。ゲストキャラクターのデザインがかなり「原点回帰」しているのだ。近年の劇しんのキャラクターたちはどちらかというと最近の流行、他のアニメのキャラクターたちをクレしん流にアレンジしたようなものが多かった。しかし今回の『カンフーボーイズ』に現れるキャラクターは、どこか古臭くデフォルメされたものが多く登場している。ヒロインのタマ・ランや敵黒幕のドン・パンパンのデザインは、90年代後半のクレしん映画でよく見かけたようなものだ。こうした良い意味での「古臭さ」は、映画全体に良いアクセントを加えることに成功している。

 

ストーリーとしては、マサオくんを通じてカンフーと出会ったしんちゃんたちが、ベタベタなカンフー映画のプロットに沿ってカンフー修行に取り組むものになっている。劇しん作品として特筆すべきなのは、劇しんの歴史上初めてマサオくんにスポットライトを当てているところだろう。いつも冴えないマサオくんが、カンフーと出会い、挫折し、そしてどのように成長していくのかは見どころの一つだ。

 

しんちゃんとヒロインのランがともに修行し、メキメキとカンフーの才能を開花させていく過程も面白い。毎度おなじみ「これ何の映画だっけ?」と突っ込みたくなるアクションシーンは健在だ。謎のラーメン勢力がカンフーでバッタバッタと倒されていくシーンはシンプルに爽快だ。

 

 

 

ところで、既に映画をご覧になった方はお気づきだろうが、ここまで赤宮は『カンフーボーイズ』終盤の怒涛の展開について全く語っていない。そこについては語りたいことが山ほどあるわけだが、なんせ読者にネタバレをするわけにはいかない。

差し障りのない範囲で言うと、『カンフーボーイズ』は「これまでのクレしんでは無かった展開」を実現させた作品だ。先に述べた「原点回帰」「マサオくんへのスポットライト」は、この展開を際立たせるために良い役割を担っている。

前作の『宇宙人シリリ』の橋本監督もかなり攻める形で劇しんの可能性を追求していたが、今回の『カンフーボーイズ』はもしかするとそれを超える作品なのかもしれない。

 

 

 

2018/4/14