日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

コララインとボタンの魔女/Coraline(2009年)

コララインとボタンの魔女/Coraline(2009年)監督:ヘンリー・セリック

 

CGではなく、パペット・アニメーション。そして、その最高峰。

 


CORALINE - Official Trailer

家族の都合で片田舎に越してきた少女コララインは、築150年のピンク・パレス・アパートでの生活に飽き飽きしていた。パパやママは家で仕事ばかりしていて、自分を気にかけてくれない。数少ない同年代の男の子ワイビーも、コララインそっくりの人形を送りつけてくるようなやつで、なんだか不気味なストーカーみたいできもちわるい。都会にいる友だちの写真を見返しては、次に彼らに会える日をじっと待つばかり。

パパとママにちょっかいをかけていたら、1人で遊びなさいと叱られてしまった。仕方なく、家中の窓やドアの枚数を数えて時間を潰す。アパートを探検していると、何やら怪しい扉のようなものが、壁紙の下から浮き出ていることに気がついた。隠し扉に胸が高鳴り、ママにお願いして開けてもらった。けれど、扉の向こうにはレンガの壁があっただけ。面白くもなんともない。

夜、いつものように寂しく1人眠っていると、どこからともなく、かわいいとびねずみの鳴く声が聞こえてきた。興味の赴くままに追いかけていくと、なんとねずみは例の隠し扉をくぐってしまった。不審に思いつつも、扉を開いてみると、そこには幻想的なトンネルが広がっている。そしてトンネルの先には、本物とは似ても似つかぬ、もう1つの美しいピンク・パレス・アパートの姿だった…

 

2009年に公開された『コララインとボタンの魔女(以下、『コラライン』)』は3D・ストップモーション・アニメーション作品だ。監督はヘンリー・セリック(『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』)が務め、2時間近い全編がパペット・ストップモーション・アニメーションで制作されている。もう一度言う。全編がストップモーション・アニメーションで制作されている。

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いや、これは本当に凄すぎることで、凄すぎるとしか言いようがない。ヘンリー・セリックはディズニーの傑作『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の監督*1を務めたパペット・アニメーションの第一人者で、かの傑作で培ったパペット力を、今作でも存分に発揮している。発揮しすぎている。凄い。

パペット・ストップモーション・アニメーションでは、映像中のどのワンシーンを切り出しても、それは実際に制作したジオラマとパペットを撮影した1枚の写真に等しくなる。既にCGの利用が盛んだった2009年において、これだけ手間のかかる*2手法を採用したこと自体、『コラライン』の偉業として賞賛せざるをえない。

2時間近い映画をストップモーション・アニメーションで制作するためには、およそ14万枚ぶんの連続する写真データが必要だ。『コラライン』は、単純計算しておよそ14万枚のジオラマとパペットの写真をつなぎ合わせ、一つの映像作品にしてしまった、途方もない作品だ。

そしてそうした14万枚のショットの一つ一つに、これでもかというくらい映画の技術が詰まっている。展開に合わせたレンズの使い分け、カメラの置き方、色付きのフィルターによるムードの演出など、伝統的な映画技術をいかんなくパペットの撮影に利用している。

 

こうしたとてつもない労力の下制作された『コラライン』は、その労力に見合った傑作としての要素を併せ持っている。

ストーリーの面から見ると、『コラライン』は片田舎に越してきた孤独な少女が異世界に迷い込むというプロットを採用している。二つの世界を行き来しながら精神的に成長し、異世界での経験を通じて自分の世界と向き合って行くプロットは、誰もが共感しやすいストーリーを形作るよう工夫されていて、子どもから大人まで幅広い層に受けるよう工夫されている。しかし一方で、子どもにある種の恐怖をもたらすような異世界の描写など、単なる子ども向けアニメにとどまらない要素があるのも心憎い。少々トラウマになりかねないところも存在するが、まあ許容範囲内だと思われる。将来「子供の頃に見てトラウマになった作品wwww」的な感じで取り上げられる作品かもしれない。

 

キャラクターも魅力的だ。主人公のコララインはもちろん、相方として活躍するワイビーや野良ネコ、どれをとってもわかりやすい役割と性格を与えられている。大人たちはどれも一癖ある存在として振る舞うが、彼らには彼らの動機がある程度しっかり示されている。コララインのパパとママは子どもの目線からすればイヤな大人かもしれない。けれども大人の目線から見れば、「ああ、そういうことあるよね」と共感できる、よくいる普通の大人の姿に思える。

 

加えて、映像として過去の名作映画へのリスペクトが数多く見られるのも趣深い。キューブリックの『シャイニング』的な構図や、『アメリ』リスペクトの主人公の描き方など、アニメーションの特性を活かして自由気ままにリスペクトを送り続けている。映画を見ていれば見ているほど楽しみも増す。そういう意味では玄人好みな一面もあるのかもしれない。

 

繊細なパペット・アニメーションと、重厚なキャラクターと、気持ちのよいストーリー。外す要素がない。子どもから大人まで心がほっこりとする作品だ。

2017/11/29

*1:『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』はティム・バートンが原案者で、彼が監督を務める予定だったのだが、スケジュール等の都合でセリックが監督を務めることになった

*2:映画の撮影には18ヶ月、通常の映画の3倍の撮影期間を要したという。