日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

LIFE!/The Secret Life of Walter Mitty(2013年)

LIFE!/The Secret Life of Walter Mitty(2013年) 監督:ベン・スティラー

 

 

成長ではない。気づいただけ。

 

 


The Secret Life of Walter Mitty Official Trailer #1 (2013) - Ben Stiller Movie HD

雑誌LIFE編集部のネガ管理部門に務めるウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は、勤続16年のベテラン社員。彼には妄想という悪癖がある。通勤中や仕事中、果てには人と会話している最中にも、ついつい空想の世界に浸ってしまう。妄想の中でで彼はスーパーヒーローになれたし、屈強な冒険家のように振る舞うこともできた。しかし現実では、そのように行動する勇気はなかった。

ある日、いつものようにウォルターが出勤すると、LIFE誌が買収され、紙媒体での発刊が中止されることが発表される。最終号には、長くLIFE誌で活躍してきた写真家ショーン(ショーン・ペン)の「25番目のフィルム」が採用されることに決まった。彼から受け取ったネガを確かめるウォルターだったが、なぜか25番目のフィルムだけが欠けている。困惑するウォルターたち。部下と協力して部屋中を探し回るが、どうしてもそのフィルムが見つからない。

LIFE誌の新たなボスであるテッド(アダム・スコット)は、25番目のフィルムを早急に提出するよう、ウォルターを問い詰める。しかし、無いものはどうしようもない。ウォルターはショーンの僅かなネガを手がかりに、彼が滞在しているとされるグリーンランドに飛び立つことを決める。空想の世界で過ごしていた中年男が、今、現実の冒険に飛び出していく。…

 

 

 

昔見た映画をもう一度見直すと、当時とは全く違った評価を与えてしまうことがある。かつて珠玉の名作だと感じた作品が他愛のない駄作に見えてしまったり、あるいはその逆であったり。

幸運にも、『LIFE!』は後者にあたる作品だ。かつて赤宮はこの映画に「駄作」との評価を与えたが、今となってはそれが恥ずかしい。

 

2013年に公開された『LIFE!』は、ベン・スティラーが監督・主演を務めた冒険映画だ。雑誌編集部の片隅で働く主人公・ウォルターが、ひょんな出来事から世界を巡る冒険に出発することになる。

ニューヨークから始まり、グリーンランドを経て世界各国へと至るウォルターの冒険は、人びととの出会い、そして自分を見つめ直す機会に溢れている。

 

『LIFE!』ストーリーの良いところ。ウォルターという中年男が、半端に成長などしないところ。冒険を通じて様々な経験を積み重ね、凛々しい顔つきに変わっていくウォルターだが、実のところ、ストーリーの始まりと終わりで変わっているところがなにもない。

作中、ウォルターはスケートボードで大地を疾走したり、地味な仕事ぶりを再評価されたりしていくのだが、そうしたスキルは冒険を通じて得られたものではなく、はじめからウォルターに備わっていたものだ。

 

よくある冒険モノ映画、それにとどまらないハリウッドの王道成長モノ映画では、プロットの三分の二を超えたあたりで主人公の挫折や課題が浮き彫りになり、それをなんとかして乗り越える、というかたちで成長物語が展開されることが多い。

乗り越え方は作品それぞれで、友人の助けであったり、恋人の支えであったり、あるいは新しい能力に気づいたり、といったかたちをとるわけだが、とにかくそれまでには得られていなかったものを頼りにして解決していくことになる。

 

こうしたプロットはとにかくわかりやすい。課題がドンと示される。もがくと解決策が現れる。だから解決する。なるほどわかりやすい。
けれど、共感を得られるかといえば、そうとも限らない。

 

現実の人生を生きてみるとよくわかるが、困ったときに、どこからともかく解決策が降ってくることなどない。

目の前に問題が現れたとき、いつの間にか他人が助けてくれることもないし、恋人がいるとは限らない。今更新しい能力に目覚めるわけでもない。
大抵の場合、困難な問題が現れたときに私たちが直面するのは、どうしようもなくちっぽけな自分であり、そうした自分がなんとかしなければならないという、当たり前の事実を認めることになる。

 

『LIFE!』は、ちっぽけな自分を受け入れて、それでも冒険に駆け出すことを決めた男の物語だ。

序盤、空想の世界に浸るだけだったウォルターは、どうしようもない状況の中、自分の務めを精一杯果たす、それだけのために、グリーンランドまで旅立つことを決意する

そして一歩踏み出した結果、ウォルターは自分を改めて見つめ直す機会に恵まれていく。

旅を通じて、ウォルターは「自分が持つもの」を一つ一つ、丁寧に認識していく。

 

 

 

「自分が何も持っていない」、そんな思いに駆られた時、『LIFE!』を観よう。

 (吹替版は歴史に残るクソ翻訳なので絶対に字幕版で見ような!!!!!!!)

2017/11/25