日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

世界大戦争(1961年)

世界大戦争(1961年)監督:松林宗恵

 

市井の人びとから見た「次の戦争」

 

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戦後16年、人びとの頑張りの甲斐あって、日本は急速な復興を成し遂げていた。かつて裸一貫で東京にやってきた茂吉(フランキー堺)も、運転手の仕事や株式投資で財産を築き、東京の一軒家、愛する家族と幸せな毎日を送っていた。

茂吉は、長女の冴子(星由里子)が良い年頃になり、そろそろ相手を見つけてやりたいと考えている。ところが冴子は、かつて自分たちの家に下宿しており、今は航海に出ている青年高野(宝田明)と恋仲になっていた。数ヶ月の航海から帰ってきた高野は、ついに冴子に結婚を申し込む。茂吉は遅れてそれを知って驚くが、二人の想いを尊重し、結婚を認めることにする。

一方その頃、国際情勢は連邦国と同盟国の二大陣営に分かれ、一触触発の緊張関係に置かれていた。両陣営が、ボタンを一つ押すだけで、相手の陣営を壊滅できるだけのミサイルが配備されていく。茂吉たちのような市井の人びとが知らないところで、世界は一歩ずつ、破滅への道を歩もうとしていた。…

 

 

 

世界大戦争』は1961年に公開された特撮映画で、当時の国際情勢を背景に制作された反戦映画だ。二分化された緊張する国際関係と、そことはかけ離れた場所で生活する市井の人びとの姿を巧みに描き、核戦争に警鐘を鳴らす内容となっている。戦闘機や戦艦は殆どが特撮で描かれており、特技監督円谷英二が務め、円谷らしい特撮技術がふんだんに盛り込まれている。

 

ストーリーは大きく二つのプロット、茂吉たちが東京で慎ましやかな幸せな生活を送る風景と、特撮をふんだんに用いた国際情勢に分割されている。

興味深く、同時に悲劇的なのは、前者、つまり茂吉たちの生活が国際情勢に与える影響は何一つない一方で、国際情勢はその悪化に応じて茂吉たちの生活を否応なく変化させていくというところだ。

茂吉たちは日々の生活、仕事を楽しみ、家族や恋人との愛を育み、「何も悪いことはしていない」。しかしどこか遠いところでなぜか軍事衝突が起こり、ラジオやテレビを通じて茂吉たちの耳に入ってくる。彼らは「戦争なんて二度と起こらない」と信じ切っているし、信じ続けているが、それが本当に起こらないとは限らない。そして彼らはある種考えることをやめて、目の前の生活をただ楽しんでいく。

なにせ、普通に生きる庶民にとって、戦争の記憶は恐ろしいが、それについて何もすることができない。遠いアフリカで戦闘機が撃墜されても、太平洋で異常な光が観測されても、彼らに何も出来ることはない、という事実がまざまざと示されていく。

 

タイトルこそうさんくさい特撮SF映画ではあるものの、『世界大戦争』が告げるメッセージ性、円谷の特撮技術が結集した衝撃のラストシーンなど、現代から見ても学ぶべきものは多い。

「ボタン一つでミサイルが飛んでくる」という、どこか現代の私たちに馴染み深くなってしまった状況とは、どのようなものなのか。半世紀前の映画でありながら、その描写は鮮明で、今なお観客に訴えて止むところがない。

 

世界大戦争

世界大戦争

 

 

2017/11/23