日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

大学は出たけれど(1929年)

大学は出たけれど(1929年)監督:小津安二郎


大学は出たけれど(短縮版) その一

昭和初期、「大学を出たけれど」定職につけない青年徹夫(高田稔)。自分の現状の恥ずかしさから、ついつい母親に対し、職を得たと嘘をついてしまった。母親は徹夫の婚約者町子(田中絹代)を引き連れ、大喜びで上京してくる。…

 

 

 

小津の初期の白黒サイレント作品。実は完全なフィルムは消失しており、現在鑑賞できるのは20分弱の短縮版のみとなっている。

とはいえ、小津の初期の作風を伺うためにはもってこいの作品だ。短縮版を見るだけでも、オリジナルでは、さぞかし後に『一人息子』でも見られるような親子の関係性と夫婦の関係性が丁寧に描かれたのだろうと推察される。

 

興味深いのは、後期の小津作品と比べて、映像の静けさがあまりないという点だろう。

本来サイレントの映画であることを考えれば、もう少し静かな印象を覚えても良いはずだが、実際のところ登場人物の動きはかなり騒がしい。ドタドタ、という音が聞こえてきそうな場面も多い。また、小津特有の視点の設定もそこまで強調されていない。短縮版ということもあるのだろうか、良くも悪くも小津らしくない作品だ。

 

ストーリーも良い。大学を出たことにプライドを持ち、母親や婚約者に嘘をついてしまう姿は、現代から見てもなんだか恥ずかしくなる場面だ。軽く嘘をついてしまったものだから、公園で必死に時間を潰す主人公の姿もなんだか悲しい。

考えてみれば、1929年といえば恐慌の真っ只中。振り返ってみれば職が見つからないのも仕方なかったのかもしれない。けれども、きっとそうした人びとには当時嫌な視線がたくさん浴びせられたのだろう。主人公が感じる自分への評価、それを素直に受け入れられない頑固さ。一世紀近く前の作品ではあるが、なぜか共感せずにはいられない場面がたくさんある。

 2017/10/30