日刊映画日記

赤宮です。楽しく映画を語ります。ネタバレは少なめ。

ザ・ビッグ・シック/The Big Sick(2017年)

ザ・ビッグ・シック/The Big Sick(2017年)監督:マイケル・ショウォルター

 


THE BIG SICK Trailer (2017)

 

パキスタン出身のコメディアン、クメールは、Uberの運転手で生活費を稼ぎながら、アメリカン・ドリームを目指し、シカゴを舞台に話芸を磨き続ける。ある日、自分の出番を終えたクメールは、客席に座っていた、アメリカ育ちの美しい白人女性、エミリーに声をかける。大学院で研究をしているというエミリーとクメールはすぐに意気投合し、やがて2人は恋人同士に。2人の関係は次第に深まっていく。気になる点といえば、なぜか、クメールが自分の家族の話をしないということ。

 

保守的なイスラム一家に育ったクメールは、イスラム式の婚姻を望む両親から、毎日のようにお見合いに駆り出されていた。家族を愛するクメールは、エミリーを大切に想いつつも、お見合いの場を断ることが出来ない。もちろん、そんな場で関係が進展するわけもない。結果、大量の見合い写真だけがクメールの部屋に残った。ある日、エミリーはクメールの部屋から大量のその写真を発見してしまう。これは一体どういうことか、とエミリーは詰め寄る。クメールは弁解する。君のことを大切に想っている。けれど自分は家族のことを見捨てることができない。僕達の関係について、君に良い未来を期待させることは出来ない。…

話を聞き終えたエミリーは、2人の関係に終わりを告げ、家を出ていってしまった。

 

クメールは今日も舞台に上がる。そして、エミリーを忘れようとするかのように、他の女性と関係を持つ。そんな時、彼の元に一通の着信が入る。エミリーの友人からだった。

「エミリーが極めて重篤な状態にある。今すぐ病院に行ってあげてくれないか」

病院に到着したクメールは、目の前の状況に混乱し、医者に求められるままに、エミリーの手術に同意する書類にサインしてしまう。そこに駆けつけたエミリーの両親。容態の安定しないエミリーを巡って、両親とクメールの間での奇妙な関係が始まった…

 

ざっくりとあらすじを書くと日本でよくある感動モノに聞こえてしまうが、「ザ・ビッグ・シック」はコメディだ。それも、特段に笑える上質なコメディだ。シリアスな場面もあるものの、全体として明るい雰囲気で話が進む。

「コメディアンと、その元カノの両親が、元カノの目覚めを待つ」ドタバタコメディである。この両親のキャラクターが素晴らしく良い。はじめこそパキスタン出身のコメディアンを胡散臭く思っていた2人は、彼との交流を経て素晴らしいツンデレを見せる。

主人公やその仲間たち、家族も良いキャラクターをしている。コメディアンの話だけあって、日常会話もジョークでまみれている。不謹慎に思えるようなジョークもどんどん飛び出す。

とはいえ、締めるところはしっかりと締めている。パキスタンからの移民である保守的イスラム家族と、アメリカの都市文化の間で苦しむ主人公。イスラムに興味を示せない主人公であるが、家族を見捨てることも出来ない。だからといって、家族からの期待に応えるわけにもいかない…しかし、こうした板挟みの中、主人公は決断を下そうとしない。様々な危機に苦しみつつも、後半ではしっかりと決断できるまでに成長する。(その1つの現れとして、主人公の服装に注目すべきだろう…前半だとよれよれの服装をしていた彼が、成長につれて徐々にピシッとしたシャツを着るようになる!)

 

一番印象に残ったのは、パキスタン出身の主人公に対し、劇場で「ISISに帰れ!」という笑えないヤジが飛び出る場面。観客の心無い誹謗中傷に対し、主人公は困惑した表情を浮かべる。一体どうなってしまうのだろう…?その予想はきっと裏切られることになると思う。

 

2017/9/17